天翔ける君



それに夜鬼は本当に恵都に危害を加えるつもりはないらしい。
もちろん、今のところは、だが。

むしろ座敷牢でさえなければ、至れり尽くせりだ。

夕方頃、恵都が起きたのを見計らったかのように夜鬼が迎えにきて、自ら屋敷や庭を案内してくれた。
恵都にとって、それは願ってもないことだった。
千鬼が助けにきてくれた時、間取りを把握していれば役に立つかもしれない。

さらに夜鬼は呉服屋や小物類を扱う店の店主たちを呼び寄せていた。
呆れることに、恵都の身の回りのものをすべて仕立てさせるつもりらしかった。

こっちの色がいいだの、もっと見栄えのする模様はないのかなどと、夜鬼は終始忙しなかった。
恵都は寸法を測られる時以外、黙って座っているだけでよかった。

「なぜだ?」

心底疑問だ、と言いたげな顔で、夜鬼は酒を飲む手を止めた。

「なぜって、逆にどうして好かれると思うの?――そもそもどうして私を、その、自分の女にしようと思うの?」

「女は贅沢が好きだろう。華やかな着物も簪も紅も、美味い料理もオレの女になれば好きなだけ用意してやる」

夜鬼は口の両端をつり上げた。
笑っているつもりなのだろうが、恵都にはそれがひどく歪な表情に見えた。



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