天翔ける君
「お前は人間だが、あれの――千鬼の女なのだろう。オレはあれからすべてを奪ってやる。一番苦しむ方法でもって、あれをひとりにしてやる。ああ、あれの絶望する顔はどんなだろうなぁ」
今度こそ、夜鬼は笑った。
その時のことを想像してか、嬉しそうにうっとりとした笑顔だった。
それなのに夜鬼には鬼気迫るものがある。
千鬼に対する憎悪が常軌を逸しているのだ。
憎い相手の死を望んだり、殺してやりたいという気持ちは恵都にも理解できる。
恵都だって、そう思ったことがある。
血が滲むほど拳を握りしめ、歯を食いしばった日々があるのだ。
もう過ぎ去ったはずのことなのに、ふとしたきっかけでその時の感情がありありと蘇る。
「なんで――いや、いい。あなたの話を聞いたってなにも変わらない」
なぜそこまで千鬼が恨まれなければならないのか。
千鬼が恨みをかうようなことをするとは思えない。
「なぜ、か。あれは生まれてきただけで恨まれる。そういう存在だ。あれさえいなければ――」
夜鬼は苦虫を噛み潰したような顔をした。