天翔ける君




恵都は手を振りかぶった。

かっとして、体が勝手に動く。
衝動が勝って、理屈は置いてきぼりになる。

――なんで、千鬼がそんな風に言われなきゃいけないの!

千鬼は救ってくれた。
絶望の淵から連れ戻してくれた。

寸前のところで、しかし簡単に、恵都の手は夜鬼につかまれた。

「人間の分際で、オレの頬でも張るつもりか?」

夜鬼の瞳は底冷えがするくらい冷たく恵都を射抜く。

「……私が生きてるのは千鬼のおかげなの。千鬼はそんな風に言われなきゃいけない人じゃない!」

「ほう。あれがお前の命を救ったのだな?だからお前はあれを好いておるのか」

恵都の頬にさっと朱がのぼる。

「人間ごときの命を救うなど容易いことだ。――話してみろ、オレの方がもっと上手くお前を救えただろう」

夜鬼が挑発的ににやりと笑う。



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