天翔ける君
「あなたには話したくない」
恵都は夜鬼の腕を振り払い座りなおした。
「お前、いい加減に己の立場を理解した方がいいのではないか?――あれにはお前を奪うのが効果的だと言ったな?お前をオレのものにするのが一番だとは思うが、別に殺してしまってもいいのだぞ」
夜鬼は口の両端をつり上げたままなのに、目は笑っていない。
それなのにやたらと楽しそうで、夜鬼の狂気を垣間見た恵都は背筋を凍らせた。
夜鬼は本気だ。
彼の気が変われば、恵都の命など簡単に摘み取られてしまうだろう。
まるで虫でも潰すように、無感情に。
「分かったらさっさと話せ」
夜鬼に促されて、恵都は事の次第を語った。
母の死や父の家での扱い。
そして、学校であったこと。
死を決意し、しかしそれに失敗して、そしてこの世界に千鬼に連れてこられたこと。
それらをなるべく淡々と話した。
千鬼の顔を思い浮かべながら、浅くなる呼吸と戦う。
大丈夫、だって千鬼がいる、と恵都は自身に言い聞かせた。