天翔ける君
「――つまり、自決しようとした命をあれに救われ、そのまま共に暮らしていたのだな?」
恵都は頷く。
あなたに邪魔されるまではね、と付け加えた。
「それくらいオレにできぬはずがない。――いや、もっとお前を喜ばせてやれるな。やはりあれはオレに劣る」
にやりと口角をつり上げる夜鬼は自信満々で、その自信はどこからやってくるのかと恵都は不思議に思った。
「お前が未だにそのように苦しむのは復讐を果たしていないからだ」
夜鬼は機嫌がよさそうに酒を煽る。
「復讐?」
「そうだ。屈辱を晴らさねば、いつまでも苦しむのも仕方のないこと」
どうやら夜鬼は彼なりに真剣に考えてくれているらしい。
けれど、すぐに根本的な考え方の違いを突き付けられるのだった。
「――善は急げと言うし、今すぐにオレが直々に食ってきてやろう。お前も見にくるか?」
弧を描いた夜鬼の瞳がぎらりと光る。
刀の切っ先のような鋭利な光に、恵都はぞくりと震えた。