天翔ける君




――食ってきてやる?
頭の中で反芻するその意味は、夜鬼にとってはまさに文字通りの言葉なのだろう。

「食うって?」

ぽろりと恵都の口から疑問が零れ落ちた。
答えの分かりきっている愚問だ。

案の定、夜鬼は呆れたように眉を寄せる。

「お前は阿呆か。お前に冷たい仕打ちをした人間どもを食ってやると言っているのだ」

「いい!やめて!そんなこと、しないで!」

立ち上がり、もうすでに部屋を出ようとしている夜鬼の着物をつかんだ。

「……なぜだ、なぜ止める?憎いのだろ?憎い奴らが食い散らかされるのだぞ、嬉しいはずだろう?」

「そんなことしたって、解決しないよ」

夜鬼の顔が明らかに不機嫌そうに歪む。

「だが憎いのだろう?それならば恨みを晴らせばよいではないか。なにを躊躇うことがある。――直接お前が手を下すわけではないのだから、それほど罪悪感だってないだろう?それとも、自ら殺してやりたいということか?」

「そうじゃない、そういうことじゃないよ!」






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