天翔ける君
「分かったぞ!毎夜ひとりずつ食い、残りのものたちに耐えがたい恐怖と絶望を与えようというのだな?」
なにをどう勘違いしたのか、夜鬼は途端に上機嫌にうんうんと頷く。
「追いつめて追いつめて、精神を引き裂いてから殺さなければ気は晴れんよな」
「だから、違うってば!」
恵都はついに叫んだ。
本気で止めなければ、夜鬼にとってそれを実現するのは容易いことだろう。
「私は復讐なんてしたくない!そりゃあ人間界にいた時は、あんな奴ら死ねばいいのにって、殺してやりたいって、毎日毎日思ってたよ!」
孤立無援の日々。
トイレの床に這いつくばわされて踏みつけられたこと、力ずくで裸の写真を撮られたこと、そして、母の遺産を体よく奪われたことは絶対に忘れない。
恵都は息を大きく吸い込んで続ける。
「でも、千鬼は私のそういう心を救ってくれた!命だけじゃない!死にたいって言う私を受け入れて、ゆっくりゆっくり生きていたいって思わせてくれた。居場所をくれたんだよ!」
まくし立てるように言いきった恵都は肩で息をした。
千鬼が救ったのは恵都の命だけではなかった。
心ごと恵都を救ったのだ。