天翔ける君
視線を感じる。
じろじろ見るなと言ったのは自分のくせに、千鬼は無遠慮に恵都を見てくる。
恵都はさらに居心地が悪くなって、とにかく口を開いた。
「ここはどこなの?あの山にこんなお屋敷があるなんて知らなかった」
鬼が住んでるなんて馬鹿げた迷信だと思っていたのに、しかし彼らは本当に存在した。
あの現れたり消えたりする角や牙、不思議な瞳を見たら、もう鬼は実在すると認めるしかない。
「ここは人間の世界ではない。お前を拾った山とは繋がっているが、全く別の場所だ」
無視されるかと思ったが、千鬼は意外にもすんなりと答えてくれた。
しかし余計に混乱して、恵都は質問を重ねる。
「じゃあ鬼って何?どういうことなの?」
「鬼は鬼だ。お前が人間と名乗るのと同じことだ」
千鬼はちゃんと質問に答えてくれる。
しかしあまり親切な受け答えとはいえず、恵都の疑問は解消されない。
非日常の連続で、恵都の頭は爆発寸前だ。
「別の世界にきたと思えばいい。それに、お前は明日オレに食われるのだから、多くを知る必要はないだろう?」
反論しようがなくて、恵都は押し黙った。