天翔ける君
姿かたちや声までそっくりなのに、陽だまりのような千鬼とはずいぶん違う。
夜鬼は氷だ。
恨みと憎しみで氷漬けになって、そしてそれを悪意でもって研ぎ澄ませている。
きっと溶けることなどないのだろう。
夜鬼自身がそれを望んでいないのだ。
恵都が夜鬼の屋敷に連れてこられて半月ほどがたった。
恵都の身の回りが夜鬼に買い与えられたものによって華やかになっていくのに対して、恵都自身は疲弊していた。
自分でも分かるくらい、恵都は憔悴していた。
じりじりと精神がすり減っていく。
眠れないし、食事は喉を通らない。
千鬼が助けにきてくれる時のために元気でいなければと思うのに、恵都の意志に反して心も体も弱っていく。
千鬼、と呟いてみる。
ひとりきりの座敷牢の中、恵都のかすれた声を誰も聞くものはいない。
起きているのが辛くて、恵都は布団に身を任せた。
夜鬼はといえば、相変わらずだ。
千鬼への憎悪以外になにもない。