天翔ける君




「おい、食事の準備が整ったぞ」

座敷牢まで呼びにきたのは夜鬼だった。
普段は南天なのに、と恵都は珍しく思いながらも慌てて身を起こした。

「しゃきっとせんか」

今日も派手な着物を着こなした夜鬼を睨みつけた。

「千鬼の屋敷に帰してよ」

「くどい」

すげなくはねつける夜鬼に、恵都はなにかが崩れたような気がした。
ぎりぎりのところで精神を支えていたなにかが、割れて崩れて、あとはもう流れていくだけだ。

「――もう限界!」

鼻の奥がつんとして、視界が滲む。
恵都は力任せに布団を叩いた。

「わめくな、鬱陶しい」

夜鬼は苛々した様子で恵都を布団に押し付けた。

「いつまでも未練がましくあれを想っておるから辛いのだろ。――おとなしくオレに身を任せてみろ」

言いながら、夜鬼は恵都に覆いかぶさった。



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