天翔ける君




暴れて暴れて、恵都は夜鬼の下でもがく。
なりふり構わず、とにかく逃れたい一心だった。

――怖い、気持ち悪い、とにかく触られたくない。

しかし夜鬼は必死の抵抗をものともせず、涼しい顔で恵都の両手をまとめて押さえつけた。

恵都は頭上で両手を拘束され、足は間に夜鬼の体を入れられて役に立たない。
着物が乱れて、足が露わになる。

怒りと嫌悪感と羞恥心と、その他の激しい感情が混ざり合って、恵都は涙を浮かべた。

「はなしてよ!」

恵都が叫ぼうとも、夜鬼の表情は一切変わらない。
いつものあの嫌な笑みすら浮かべない。

拘束された両手は折れるほど力を込めてもびくともしない。
夜鬼の屋敷には恵都の味方など、ひとりとしていない。
どんなに叫ぼうとも、助けは望めないのだ。

恵都の気持ちなどお構いなしに、夜鬼は着物の衿に手をかけた。

絶望的、という言葉が恵都の頭に浮かんだ。

嫌で嫌でなんとかしたいのに、体は動かせない。
ひとりで切り抜けるなんて無理なのに、誰も助けてくれない。



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