天翔ける君
恵都は千鬼の視線に耐えられなくなって、よろめきながらもなんとか立ち上がった。
怒涛の展開で気にする暇がなかったが、喉が渇いているのを思い出した。
あの男が持ってきてくれたスクールバッグの中には、たしかペットボトルのミルクティーが入っているはずだ。
――やっぱりあまり痛くない。
捻った足を引きずるようにすれば、ゆっくりだが歩ける。
そうして歩いている様もずっと見られていて、恵都はそわそわしてたまらない。
だから恵都はスクールバッグをつかんで、千鬼から離れた場所に腰を下ろした。
それでも視線は感じるが、月明かりのみの暗い部屋では千鬼の顔まではよく見えない。
――この部屋は千鬼の私室だろうか。
二十畳ほどの空間に布団と刀しかないものだから殺風景で、余計に広く感じる。
ミルクティーを口に含むと甘く、恵都はなんとなく人心地ついた。
「それはなんだ?」
不意に話しかけられて、恵都はペットボトルから口を離した。