天翔ける君
恵都は自分のために傷ついた千鬼になにもしてあげられない。
こうして見守って、信じたこともない神に祈ることしかできない。
歯がゆいけれど、これが恵都の現実だ。
柊は静かに部屋に入ってくると、優しく恵都に話しかけた。
「お疲れでしょうから、お部屋でお休み下さい」
疲れているのかもしれないが、恵都は神経が昂っていて自覚がない。
それに、眠れるような気分ではない。
「それだったら柊さんがどうぞ。私が千鬼を看ていますから」
柊は穏やかに目を細め、
「ではお言葉に甘えて、少しの間お願いします。向かいの部屋で休みますから、なにかあったらすぐにお呼び下さい」
「はい」と恵都が返事をするのを待って、柊は立ち上がった。
柊が部屋を出ていくと、室内は静まり返った。
恵都は定期的に千鬼の額に当てた手拭いを冷やし、少しでも彼が楽になるようにした。