天翔ける君





「私は大丈夫です。人間だって、一日くらい寝なくたって平気ですから」

それに、と恵都は言い募る。

「千鬼の側を離れたくありません。眠くもないし、きっと横になっても眠れません。それだったら千鬼の側にいたいです」

恵都はなんとか食い下がろうと柊を見つめた。

「いいえ、駄目です。眠れないにしても、目を閉じて横になって下さい。それだけでも随分違いますから」

柊は相変わらず穏やかに微笑んでいるのに、恵都は有無を言わせない圧力を感じて、渋々「分かりました」と返事をした。




恵都は久しぶりに自分にあてがわれた部屋に入った。

あの日からなにも変わっていないな、と部屋を見回すと、些細な変化に気がついた。

箪笥の上にはいくつか置物が飾られている。
千鬼や山吹が気まぐれに町で買ってきてくれたものだ。
犬や猫、鮮やかな鳥など様々で、恵都の目を楽しませてくれる。

増えていたのはうさぎの硝子細工だった。

だから恵都はすぐに千鬼のくれたものだと分かった。




< 153 / 174 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop