天翔ける君
「私は大丈夫です。人間だって、一日くらい寝なくたって平気ですから」
それに、と恵都は言い募る。
「千鬼の側を離れたくありません。眠くもないし、きっと横になっても眠れません。それだったら千鬼の側にいたいです」
恵都はなんとか食い下がろうと柊を見つめた。
「いいえ、駄目です。眠れないにしても、目を閉じて横になって下さい。それだけでも随分違いますから」
柊は相変わらず穏やかに微笑んでいるのに、恵都は有無を言わせない圧力を感じて、渋々「分かりました」と返事をした。
恵都は久しぶりに自分にあてがわれた部屋に入った。
あの日からなにも変わっていないな、と部屋を見回すと、些細な変化に気がついた。
箪笥の上にはいくつか置物が飾られている。
千鬼や山吹が気まぐれに町で買ってきてくれたものだ。
犬や猫、鮮やかな鳥など様々で、恵都の目を楽しませてくれる。
増えていたのはうさぎの硝子細工だった。
だから恵都はすぐに千鬼のくれたものだと分かった。