天翔ける君
千鬼はいつもうさぎの形をしたものや、描かれたものをくれる。
箪笥の上の置物にしても、半分はうさぎだ。
恵都の湯呑や茶碗、手拭いにしても、千鬼が選んだものはすぐに分かる。
必ずうさぎなのだ。
千鬼の部屋にある恵都専用の座布団でさえ、可愛らしいうさぎが描かれているほどだ。
なぜだかは恵都にも分からない。
一度千鬼に「うさぎが好きなの?」と聞いたところ、なぜそう思うんだと訝しげな顔をされた。
恵都はうさぎが好きだと言ったことはないし、事実特別好きではない。
けれど、千鬼がくれるうさぎはどれも可愛くてすきだ。
見るたびに嬉しくて、千鬼の笑顔を見れたときのようなふわふわとした気持ちになれる。
硝子細工の新しい仲間を手のひらに乗せ、恵都は頬を緩めた。
「おかえり」と言ってくれているようで、胸が詰まる。
柊に言われた通り布団に入って、恵都はおとなしく目を閉じた。
眠れる気がしなかったのに、何度か寝返りをうつ内に、徐々に意識を手放していった。
恵都が次に目を開けたとき、すでに夕方だった。
数時間寝ただけなのに、体が軽くなっている。