天翔ける君
夜鬼の屋敷では落ち着いて眠れなかった。
恵都はじわじわと体力を消耗し続ける状態だったのだ。
千鬼の屋敷でならば、数時間の睡眠でも体の疲れがとれる。
ここが恵都の居場所なのだと、体が主張しているようだった。
軽く身支度を整えてから千鬼の部屋へ顔を出すと、さっきと様子は変わっていなかった。
容体に変化はないようで、恵都は安心していいのか落ち込んだらいいのか分からない。
「柊さんは食べられないものとかありますか?」
恵都の脈絡のない質問に柊は首を傾げた。
それに合わせて長い黒髪がさらりと肩を滑る。
「特にありません。……もしかして、食事を作って頂けるのでしょうか」
柊はそわそわした様子で恵都を見つめる。
柔和そうな黒の瞳には明らかな期待が込められていて、恵都は予想外の反応に少したじろいだ。
「食事といっても食材がほとんどなかったので、おにぎりくらいしかできないんですけど」
千鬼の部屋に来る前に寄った台所には米と梅干くらいしかなかった。