天翔ける君
千鬼が目を覚ましたら、言いたいことがたくさんある。
聞きたいことだってたくさんある。
「……千鬼」
ほとんど無意識に、恵都はその名を口にした。
すると、千鬼の瞼が微かに動いた。
「千鬼!」
恵都の声に応えるように、千鬼の瞳はうっすらと開いた。
朦朧とした千鬼の視線が宙を彷徨う。
恵都と目が合うと、千鬼は微笑んだ。
それを見て、恵都の涙は決壊したかのように溢れ出した。
「――千鬼、千鬼」
意味もなく、千鬼の名を連呼する。
言いたかったことも、聞きたかったことも吹き飛んでしまって、もうよく分からない。
「なぜ、泣いている」
千鬼の苦しそうな声に、恵都は嗚咽を漏らした。
「泣くな」
「……だって、千鬼が」
「――その傷はどうした。それが痛むのか」
恵都は首を傾げた。