天翔ける君






怪我などした覚えはない。
痣くらいならできていてもおかしくはないが、傷は覚えがない。

「そこだ」

千鬼は布団から手を出し、恵都に差し伸ばそうとする。

「……ぐっ」

伸ばしかけた千鬼の手は途中で引っ込められた。
手を伸ばすと、腹の傷に障るのだろう。

「大丈夫?千鬼、ごめんね。本当にごめん」

「泣くな。どうしたら泣き止む」

困り果てたように言った千鬼は、痛みに耐えながら手を伸ばす。

「ごめんね、私のせいで怪我させちゃって」

ぽろぽろと勝手に涙は恵都の頬を伝い落ちる。

千鬼の手がそれを拭ってくれる。
熱のせいで熱い体温が心地良い。

千鬼が怪我で苦しんでいるのに、なにもできないどころか、こうして心配までかけてしまっている。
それが情けなくて、恵都の涙は止まらない。

止めようと思っているのに、溢れるばかりだ。




< 159 / 174 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop