天翔ける君
怪我などした覚えはない。
痣くらいならできていてもおかしくはないが、傷は覚えがない。
「そこだ」
千鬼は布団から手を出し、恵都に差し伸ばそうとする。
「……ぐっ」
伸ばしかけた千鬼の手は途中で引っ込められた。
手を伸ばすと、腹の傷に障るのだろう。
「大丈夫?千鬼、ごめんね。本当にごめん」
「泣くな。どうしたら泣き止む」
困り果てたように言った千鬼は、痛みに耐えながら手を伸ばす。
「ごめんね、私のせいで怪我させちゃって」
ぽろぽろと勝手に涙は恵都の頬を伝い落ちる。
千鬼の手がそれを拭ってくれる。
熱のせいで熱い体温が心地良い。
千鬼が怪我で苦しんでいるのに、なにもできないどころか、こうして心配までかけてしまっている。
それが情けなくて、恵都の涙は止まらない。
止めようと思っているのに、溢れるばかりだ。