天翔ける君
今のって――、と千鬼の行為を反芻して、恵都の頭は真っ白になった。
キス、ということになるのだろうか。
でも唇を舐められるのは、キスとは少し違うような気がする。
色々なことが頭を駆け巡って、恵都はもう一度唇に触れた。
驚くことに、この数秒のうちに傷が消えている。
確かにたいした傷ではなかったけれど、だからといって一瞬で治るはずがない。
妖ってこんなこともできるの?
鬼だから?
それとも、千鬼だから?
疑問を並べてはみるものの、すぐに千鬼の行為と下唇に残された感覚を思い出して、なにも考えられなくなる。
千鬼に目をやると、先ほどのことが白昼夢に思えるくらい、元通りに眠っている。
恵都の視線は自然に千鬼の口で止まって、頬が赤くなった。
頬は燃えるように熱いし、心臓は痛いくらい早鐘を打っている。
――生死を彷徨っているのに、どうしてあんな些細な傷を気にしてくれるの?
どうしてそんなに優しくしてくれるの?
恵都の涙はいつの間にか止まっていた。