天翔ける君
染まらぬ君
無意識に寝返りを打とうとして、千鬼はうめき声を上げた。
――腹が痛い。
この痛み方は刺し傷だろうか。
千鬼は腹部の痛みで目を覚ました。
うっすらと目を開けると、そこには心配そうにのぞき込む恵都の姿があった。
「――千鬼」
おかしい。
恵都の姿を見たのも、声を聞くのも久しぶりな気がする。
しかもかすれていて、普段とは少し違う声音だ。
「千鬼!」
恵都の顔が今にも泣き出しそうに歪む。
――恵都を泣かせるのは誰だ。
千鬼は起き上がろうと試みるが、体に力を入れた途端に腹が痛んだ。
う、と情けない声が漏れた。
恵都は慌てた様子で、
「じっとしてて」
と布団から出た千鬼の手を握りしめた。
状況のつかめない千鬼は首だけを動かして辺りを見回した。
見慣れた天井に襖、間違いなく千鬼の私室だ。
いつもと違うのは涙をいっぱいに溜めた恵都と、腹部の痛み。
このふたつが千鬼に異常事態を知らせている。