天翔ける君
ーーいったい、なにがあったのだろうか。
千鬼は朦朧とする頭で記憶を手繰り寄せた。
しかし起き抜けの頭は上手く機能せず、どうもおぼろげだ。
思考がまとまらない。
恵都はあっさりと手を離し、
「ちょっと待っててね」
と言い残して、返事も待たずに部屋を出ていく。
なぜ手を離す、もう少しでいいから握っていてくれ。
どこに行く、ここにいてくれ、と呼び止めたくなる。
それが口から零れ落ちなかったのは、ただ単に千鬼の意地だった。
恵都にはみっともないところを見せたくない。
頼れる存在でありたい。
愚かでみっともない意地だ。
千鬼自身そう思う。
けれど、それが千鬼の矜持であり決意したことだ。
恵都を妖の世界へ連れてきたのは千鬼だ。
だからなにか問題が起これば解決してやりたいし、またその責任もあると思う。
弱いところを見せて、恵都を不安にさせることなどあってはならないのだ。