天翔ける君
千鬼は痛むこめかみに顔をしかめた。
寝すぎたようで、ずきずきと鈍く痛む。
横になっているのにくらくらとして、十分に眠っていたはずなのに、再びまどろみたくなる。
ーー人間に、生まれていたなら良かったのだろうか。
恵都と同じ世界で生きたかった。
そうしたらこんな風に悩むことはなかったのだろう。
恵都の甘い香りや肌の柔らかさにおびえることもない。
壊してしまわないように、細心の注意をはらう必要もない。
いつか、もし、食ってしまったら、なんて考えずに、ただ抱きしめていられるのだろうか。
恵都が愛しい。
強く抱きしめて、心の底まで混ざり合いたい。
人間に生まれていたなら、この望みは叶っただろうか。
気やすく触れられただろうか。
ーー馬鹿馬鹿しい。
ありえないことだ。
千鬼は妖の世界に鬼として生まれ、そして、それは死ぬまで変わることはない。
しかし恵都に対する愛しさも、きっと変わることはないのだろう。