天翔ける君


余計なことを考えているうちに、徐々に記憶が蘇ってくる。
まるで霧が晴れていくように。

記憶が鮮明になるにつれて、恵都の涙の理由に千鬼は歯を食いしばった。

ーーオレのせいではないか。
恵都を泣かせているのは誰でもない、オレだ。

けれど、千鬼は自分のしたことを後悔はしなかった。
たとえ何度あの場面を繰り返そうとも、きっと、同じ決断をするだろう。

なんとしても恵都を助けたかった。

あの場の主導権を握っていたのは、恵都を人質にとっていた夜鬼だ。
完全に優位に立たれていた。

千鬼が恵都を見捨てないことを、あの鬼は分かっていた。
それでいてあの選択を迫ったのだ。

夜鬼は仲間に手をかけ、もがき苦しむ千鬼が見たかったのだろう。
なにもかもを千鬼から奪い、じわじわと心が死んでいくのを心待ちにしている。

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