天翔ける君



千鬼は夜目がきくはずなのに、すごく距離が近い。

しゃべったら息がかかりそうなくらいで、しかもなんだかいい香りがする。
ほんのり甘くて、でも嫌な感じじゃない。
むしろ――。


――くらくらする。
千鬼のせいで、ますます恵都の考えはまとまらなくなってしまう。

「なんだ、早く言え」

「……自販機はお金を入れてボタンを押すだけで買えるんだけど」

しどろもどろになる恵都などどうでもいいようで、千鬼は頷いて先を促す。
月明かりを映す濡れ羽色の瞳が艶めかしい。

「……近い!あんまり近寄らないで!」

とうとう恵都は我慢が出来なくなった。
千鬼の肩を押し返そうとするが、全然びくともしない。

「オレは鬼だ。人間の腕力が通用すると思うな」

千鬼の唇が意地悪そうに歪む。
その表情すら見惚れてしまうほど美しい。

千鬼という男は美しすぎて心臓に悪い。


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