天翔ける君


ーー怪我をしていて良かったかもしれない。

恵都にこれ以上触れるのは危険だ。
歯止めがきかなくなりそうで恐ろしい。

恵都を傷つけたくない。

それなのに、鬼が人間を傷つけるのはいとも容易い。
ほんの少し力を込めるだけで、動かなくなる。

「千鬼?どうしたの?どこか痛むの?」

心配そうに眉尻を下げた恵都にのぞき込まれ、千鬼は雑念を振り払った。

ーーオレは鬼だ。人間を食う。

それなのに、こんな感情を抱くのがおかしいのかもしれない。

千鬼は鬼で、恵都は人間。
初めから分かっていたことなのに。

それなのに、この感情を捨てられない。

恵都を愛しいと思うこの気持ちがなかったら、それはもう自分ではない。
千鬼はそんな気さえした。

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