天翔ける君
「いいや、考え事をしていただけだ」
「本当?なにかしてほしいことがあったら遠慮なく言ってね。なんでもするよ?」
「もう十分してもらっている」
ーーいてくれるだけで、もうそれだけでいいのに。
恵都は千鬼の役に立とうと一生懸命だ。
その様子には焦りさえ感じる。
千鬼の怪我は自分のせいだ、と考えているようだ。
何度も何度も謝られた。
泣きはらした瞼が痛々しい。
まったくの逆なのに、と千鬼は思う。
恵都は一方的に被害者だ。
同意もなく妖の世界に連れ去られ、千鬼の屋敷にいたというだけで、さらに夜鬼に拉致された。
そこに恵都の落ち度はたったのひとつもない。
すべては千鬼の油断と過信が招いた結果だ。