天翔ける君
「……ちゃんと質問には答えるから、もうちょっと離れて!」
押し返そうとした両手を逆につかまれてしまって、恵都は降参した。
腕力で敵う相手ではない。
――動揺なんてして、馬鹿みたいだ。
この鬼は明日にでも恵都を食う。
それでやっと解放されるのに。
それなのに感情を揺さぶるのはやめてほしい。
恵都は千鬼の際限のない質問に答え続けた。
そこから出る新たな疑問にもいちいち答えて、ついには外が明るくなってしまった。
起きているのが限界になった頃、スクールバッグに入れっぱなしになっていたスマホのアラームが鳴った。
いつもならもう起きて準備を始める時間だ。
突然鳴りだした音に、千鬼は驚くべき跳躍力と素早さで枕元の刀に手をかけた。
抜き身の刀を恵都の首筋に突き付け、赤く灯った瞳で睨み付ける。
「何の音だ。怪しい動きを見せれば明日を待たず切り捨てる」
いつの間にか角と牙も生えていて、それがただの威嚇ではないのは明白だった。