天翔ける君



怖くなかった。

アラームで起きて、身支度をする。
そして、学校へ向かう。
それを想像しただけで、恵都の心は一気に冷めた。

――あの日常に戻るなら、死んだ方がまし。

「……そうしてよ。私は死にたい」

恵都の脳裏には様々な記憶と感情が蘇って、消える気配はいっこうにない。

吐き気がする。
それに、酸素の薄いところにいるみたいに息が吸えなくなる。


じっと見つめ返すと、千鬼は表情を変えないままゆっくりと納刀した。
刀を枕元の台座に戻し、恵都の正面に座りなおす。

「今から術を使ってお前を眠らせる。起きたらその音の説明をしてもらうぞ」

返事を待たず、千鬼は恵都の額に手をかざした。

すると恵都は気を失たかのように、突然崩れ落ちた。


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