天翔ける君
恵都は田舎道を突っ走った。
見渡す限りの田んぼと畑。
その中にぽつぽつとまばらに建つ民家。
そこには恵都の家もあったが、目もくれずにひたすら自転車を漕いだ。
恵都の目的地はバスを降りる前からすでに見えていた。
小学校の遠足でも大丈夫そうな小さな山だ。
恵都はその山の名前も憶えていない。
しかし、引っ越してきて一番に言われたことが頭から離れなかった。
「あの山には近づくな。鬼が住んでいる」
どこにでもありそうな、なんの変哲もない山だ。
不気味な感じも特にない。
あまりに馬鹿馬鹿しくて、笑えもしなかった。
ただ、へぇーと相づちを打つのが精一杯だったが、思いっきり笑い飛ばしてやればよかった。
鬼が住んでるなんて本気で信じているのかは分からないが、地元の住人が山に近寄らないのは本当らしい。
だから、恵都は今、一心にあの山を目指している。