天翔ける君
千鬼は眠らせた恵都に布団をかけてやった。
恵都の頬には涙の跡ができていて、瞼も腫れている。
――痛々しい。
そう感じた千鬼だが、それがどういう感情からくるのかよく分からない。
千鬼が恵都を見つけたのはたまたまだった。
妖の世界と人間の世界はあの山で繋がっている。
他にも繋がっている場所はたくさんあるが、千鬼の屋敷から一番近いのがあの山だ。
恵都を連れ帰って怪我を手当てしてやったのはただの気まぐれで、倒れているのを見つけた時に腹が減っていなかっただけだ。
だが食うつもりなのは本気だ。
恵都はひどくうまそうだった。
月夜にも艶やかな黒髪は、一点の曇りもない肌に映えて美しかった。
長く繊細なまつ毛もふっくらした唇も、千鬼を誘うのに十分な魅力があった。
だから千鬼は恵都を食う。
ほのかに香るいい匂いも、千鬼の食欲をそそった。