天翔ける君
恵都にはそれが重要だった。
――誰も近寄らない、というそれだけが。
ようやく山の入り口に着いた頃、いつの間にか恵都の顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっていた。
しかしそれも構わず、自転車をそこら辺に乗り捨てて山に分け入った。
息が切れて登るのが辛くなった頃、恵都はスマートフォンで時間を確認した。
登り始めてから1時間。
辺りは暗闇だった。
もう少し登ろうと一歩踏み出して、恵都は木の根かなにかに足をとられた。
派手に転んで、声も出ない。
とっさについた手も膝もじんじんと痛む。
スマホの液晶画面の明かりで照らしてみると、擦りむいた傷口からは血がにじんでいた。
痛いわけだ。
ついてない。
恵都の頭には色々なことが浮かんだが、そのどれもが最早どうでもいいことだった。
これからすることに比べれば、とるに足らない些細なことだ。
――ともかくもう少し登ろう。
立ち上がろうと足に力を込めたところで、左足首に激痛が走った。
「……いったぁ」
――なにこれ、もう。
なんでこんな目に合わなきゃいけないの。
言葉にはならずに、涙が溢れた。