天翔ける君
捻ってしまったのか、歩くどころか立ち上がれそうもない。
「もういいや。もう、ここでいい」
恵都は独り言ちて、スクールバッグの奥底から目当てのものを取り出した。
どこにでも売っている二つ折りの剃刀。
震える手で開くと、刃が月明かりで鈍く光った。
恵都はセーラー服の袖を乱暴にまくって、刃を垂直に左手首に添えた。
手首にはすでにいくつもの傷跡がある。
でも、今回の傷が最後だ。
寒くもないのに手が震えて、うまくねらいが定まらない。
怖い。
死ぬのは怖い。
でも、生きているのはもっと怖い。
明日を迎える勇気がない。
恵都は涙のこぼれ続ける瞳を固く閉じ、歯を食いしばって、思い切り剃刀を引いた。