天翔ける君
のれんをくぐると、そこには様々な色や柄の反物が所狭しと並べてあった。
「好きなものを選べ」
千鬼はそう言うが、恵都は困りに困った。
着物といっても反物の状態で、既製品の浴衣しか買ったことのない恵都には何を基準に選べばいいのか分からない。
「千鬼、一緒に選んでよ。よく分からないし、自分で着られるのなんて浴衣くらいだよ」
千鬼に萎縮しているらしい店主には聞こえないように恵都は声を潜めた。
こちらの世界の住人はみんな当たり前に着物を着こなしていて、恵都は自分だけが着付けもできないのが恥ずかしい。
一緒にいる千鬼たちにまで恥をかかせてしまうのではないかと申し訳なくも思う。
「着物も着られないのか」
千鬼はほんの少し目を見開いて、
「あとで人間の着るものについて教えてもらおうか」
と、薄く微笑んだ。
「それに、浴衣が着られれば問題ないだろう。もしできなければオレが着せてやる」