天翔ける君




――不意に目が覚めた。

薄く開いた恵都の瞳が映したのは、うっすらと月明かりの差し込む木の天井だった。

ぼんやりする頭で、どこだろうかと思案する。
恵都の知らない天井だった。


う、と引きつれた声が漏れた。
ひどく喉が渇いていて痛い。

「起きたか」

突然声をかけられて、恵都は跳ね起きた。

知らない声、知らない場所。
混乱しているのが恵都自身よく分かる。

暗くて見えないが、声のした方に目を凝らした。

「あなたは誰?ここはどこですか?」

「せんき、と呼ばれている」

声の主が近づいてくる気配がする。
声の感じからして若い男だ。

「千の鬼、と書いて、千鬼」

変わった名前だ。
鬼なんて感じ、人名として使えるのだろうか。
恵都は朦朧とした頭で思った。


知らない場所に知らない男と二人きり。
普通なら怖くてたまらないのだろうが、恵都はがっかりしていた。


――死にそびれてしまった。


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