天翔ける君



「こんなにもらえないよ。困るよ」

「なぜだ」

千鬼の眉間にわずかな皺が刻まれる。

「……だって、私、千鬼に食べられるんだよ?」

千鬼は押し黙って腕組みをする。
気まずくて、恵都は俯いた。


――せっかく買ってくれたものなのに、気分を悪くさせてしまっただろうか。
でも、千鬼が恵都を食うというのは、二人の合意の上だったはずだ。

「……まだ死にたいと思っているのか」

千鬼の口調に抑揚はないが、叱られているみたいで

「だって……」

と恵都は口ごもる。

千鬼はなにも言わない。
どうしよう、と恵都が顔を上げると、千鬼は悲しそうな表情を浮かべていた。

千鬼のそんな表情は初めてだった。

罪悪感からか、恵都の胸までが痛くなる。


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