天翔ける君



「ここで暮らすようになってからね」

恵都は言葉につまった。

ずっと言い出せなかった。
考えないようにもしていた。

でも、言わずに死んでしまうのも嫌だった。

「……死ぬのが惜しくなっちゃったくらいだよ」

千鬼は無言で、身じろぎひとつしなかった。

――呆れられたのかもしれない。
千鬼の手を握る手に、恵都は無意識に力を込める。

恵都はもう死ぬのが怖い。
屋敷での暮らしは楽しく穏やかで、人間界での生活を思い出す回数は減っていた。

ふとした瞬間に思い出して苦しめられる時もあったが、時間がたてば楽になれると思えた。
千鬼と山吹との生活は確実に恵都を癒していった。

「でも、ちゃんと食べられるから!だからそれまではここに置いてくれる?」

千鬼は返事をしてくれない。

きっと愚かだと思われている。
馬鹿な人間だと蔑まれても仕方がない。



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