天翔ける君



握りしめている千鬼の手がほんのり温かくなってきた。
それは千鬼が鬼に変化した証で、でも恵都は手を離さなかった。

この日常となった非日常がずっと続けばいいのに、と思った。
そんなことありえないのに、ここは居心地が良すぎた。

だから、恵都は諦めようと思ったものに、もう一度手を伸ばしてしまった。


千鬼がやんわりと恵都の手を振りほどいた。

今度こそ千鬼に食われる。
そう直感したけれど、恵都は逃げなかった。

死にたくないと思う反面、この場所でないのならばいらないとも思う。
だから、食われるのなら千鬼がいい。

屋敷を飛び出した先でどうせ食われてしまうのなら、千鬼がいい。

――だって、もともと死ぬつもりだったじゃないか。

それが気まぐれに引き延ばされただけ。
決めていた結末が今この瞬間に訪れるだけ。

恵都は覚悟を決めて面を上げた。

千鬼の瞳はやっぱりあの牡丹の色と似ていて、でもそれよりももっと魅力的だ。
美しい瞳から目が離せなくなる。



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