天翔ける君
初めて千鬼の赤い瞳を見た時、恐怖で動けなくなった。
でも今は違う。
この美しく灯る瞳をずっと見ていたいと思う。
千鬼の指が爪を当てないように、丁寧に恵都の頬を撫でる。
熱い手のひらがもどかしい。
恵都の長い髪を千鬼が優しく払いのけた。
千鬼の顔が近づいてきて、そのまま恵都の首筋に埋もれる。
もうあの瞳を見ることはないんだと思うと、ひどく感傷的な気分になった。
その代わりに、千鬼の熱い体に包み込まれた。
溶けてしまうそうなくらい心地よく、恵都は目をつむった。
――最期にこんな温かい思いができたんだから、あの時に死んでなくてよかった。
「オレは妖だ」
千鬼がぽつりとつぶやいた。
「鬼だ。人を食う」
うん、と返事をすると、千鬼は恵都を離した。
恵都の両肩を押さえて、赤い瞳で覗き込む。
「食った人間の顔など覚えていない。何人食ったのかも覚えていない」