天翔ける君



千鬼がなにを言わんとしているのか、恵都には分からない。
ただ苦しそうなその表情が恵都を悲しくさせた。

「恵都は人間だ。食うために連れ帰った」

うん、とまた恵都は相槌をうつ。

「だが、恵都を食うのは嫌だ。死んでほしくないと思う」

千鬼の瞳が揺れる。
涼やかな美しさのある千鬼が恵都を見つめて顔を歪める。

「でも、私、あんなところに帰りたくない!帰るくらいなら、千鬼に食べられちゃいたいよ!」

あの家に戻ったら、どんな顔をされるだろう。
学校ではどんな扱いが待ち受けているだろう。

――嫌だ。
頭がおかしくなる。
もう考えたくない。

あの世界に帰るくらいなら、食われてしまいたい。
もうあんな場所想像もしたくない。

「ここにいればいい。ずっと恵都がいたいだけここにいればいい」

ぎゅっと抱きしめられて、恵都は子供のように声を上げて泣いた。



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