天翔ける君
「いいの?私なんにもできないよ?」
「恵都の作る料理はうまい。山吹だって手伝ってくれるから有難いと言っていた」
「本当?本当にここにいてもいいの?」
しつこく聞くと、千鬼は頭を撫でてくれた。
「それで恵都が生きていたいと思えるならいい」
恵都は千鬼の胸にしがみ付いて泣いた。
少しずつ下がってくる千鬼の体温が気持ちいい。
――死ななくてよかった。
もう死にたいなんて思わない。
だって、千鬼がここにいてもいいと言ってくれたのだから。
この妖の世界では、人間としての一般的な幸せは手に入らないかもしれない。
――でも、私には私の幸せがある。
千鬼がいてもいいと言ってくれたこの世界で生きていくのだと、恵都は心に決めた。