天翔ける君



「いいの?私なんにもできないよ?」

「恵都の作る料理はうまい。山吹だって手伝ってくれるから有難いと言っていた」

「本当?本当にここにいてもいいの?」

しつこく聞くと、千鬼は頭を撫でてくれた。

「それで恵都が生きていたいと思えるならいい」

恵都は千鬼の胸にしがみ付いて泣いた。
少しずつ下がってくる千鬼の体温が気持ちいい。

――死ななくてよかった。

もう死にたいなんて思わない。
だって、千鬼がここにいてもいいと言ってくれたのだから。


この妖の世界では、人間としての一般的な幸せは手に入らないかもしれない。

――でも、私には私の幸せがある。
千鬼がいてもいいと言ってくれたこの世界で生きていくのだと、恵都は心に決めた。


< 58 / 174 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop