天翔ける君
千鬼は悩んでいた。
恵都は人間だ。
食欲の対象だ。
けれど、食うつもりはない。
初めて見た時と同じようにうまそうに見える。
しかし、その感情は食欲とは違う気がする。
恵都を食うところを想像してみると、途中で思考が停止する。
苦痛に歪む恵都の顔などみたくないし、そうさせる自分が許せなくなる。
恵都は妖の世界で生きることを決めてから明るくなった。
それが元々の気質だったようで、千鬼にとってはとるに足らないようなことで顔をほころばせる。
山吹は歓迎して、毎日楽しそうに恵都と家事をこなしている。
千鬼だってこれでよかったと思っている。
辛い思いをする人間界に帰すつもりなんてなかったし、なによりもう恵都を食うなんてできなかった。
それがどうしてだか、千鬼には分からずに悩んでいるのだが。