天翔ける君
恵都と過ごす時間は減った。
ただで置いてもらうわけにはいかない、と恵都が山吹の手伝いに勤しんでいるからだ。
だが恵都は人間で、夜目がきかない。
蝋燭の明かりでは日が落ちてから家事をするのは無理がある。
そのため恵都は昼前にはもう起きていて、千鬼とは少しずつすれ違いの生活になり始めた。
千鬼が早く起きれば済む問題かもしれない。
だが恵都の家事にあてる時間を奪えば、もっと早く起きて働き始めるかもしれない。
その分夜に過ごす時間は更に減ってしまう。
人間は弱い。
すぐに熱を出したり、ちょっとした怪我もすぐには治らない。
手当てしてやった恵都の怪我も、なかなか治らずに千鬼の気を揉ませた。
寿命だって短い。
千鬼たち妖からしたらあっという間の儚い時を懸命に生きる。
怪我に苦しみ病におびえ、それでもめげずに文明を刻む。
千鬼が縁側で月を眺めていると、そこに恵都が小走りでやって来た。
白地に真っ赤な牡丹の着物がよく似合う。
嬉しそうに顔をほころばせ、その手にはなにやら大事そうに皿を持っている。