天翔ける君
「頑張ったご褒美に、山吹が食べていいって!」
薄桃色の饅頭がふたつのった皿を嬉しそうに見せられて、千鬼の頬もつられて緩む。
――よっぽど甘いものが好きなのだろうか。
恵都が隣に腰を下ろして、皿にのった饅頭を差し出してくる。
「可愛い」
恵都が饅頭を見てつぶやく。
饅頭が可愛い。
千鬼にはその感性はよく分からない。
可愛いのは恵都だ、と思う。
なにかを可愛いと思うのは初めてで、千鬼は恵都と出会ってから戸惑ってばかりだ。
食べもせずにこにこと饅頭を眺めている恵都から視線をそらした。
恵都といると、なんのきっかけもないのに変化しそうになる時がある。
食いたいと思っているわけでもないのに、瞳が赤くなりそうなのがなんとなく分かる。
正体の知れない気持ちの昂りを抑えるので必死だ。