天翔ける君
「千鬼?どうかしたの?」
恵都が小首を傾げた。
その手が千鬼の足に触れて、抑えきれず瞳が赤く輝いた。
まだ角や牙までは変わっていないが、いつそうなってもおかしくない。
「もう、そんな怒らなくても独り占めしたりしないよ」
恵都は饅頭をひとつ手に取り、それを千鬼の口に押し付けた。
押し付けられるまま、千鬼はそれをひと口かじる。
ふわりと鼻をかすめる甘い香りが恵都と少し似ている。
「……甘い」
「おいしい?」
千鬼は頷いた。
実のところ、甘いものを食べるようになったのは恵都が来てからだ。
それまでは出されても興味がなくて手を付けなかった。
恵都の屈託のない笑顔を見ていると、鬼の本性へと変化することがとても汚らわしいことのように思える。
千鬼にとって妖が人間を食うのは自然なことだ。
当たり前のことで、千鬼だって覚えていないくらい経験している。