天翔ける君



恵都は人間で、食欲の対象だ。

その命は儚く、日々老いていく。
千鬼のように悠久の時を生きることはできない。

別の生き物だ。
たとえ姿が似ているとしても。

「千鬼どうしたの?私なにか怒らせちゃった?」

恵都が不安そうな顔で覗き込んでくる。

その大きな黒い瞳に映り込んだ千鬼の姿は変化していて、抑えようとしているのに角も牙も生えている。

「怒ってるなら怒ってるって言って?」

「違う。そうではない」

恵都の手首をつかんだ。
ほんの少し千鬼が力を入れただけで折れてしまいそうに細い手首。

たったそれだけのことで恵都は饅頭ののった皿を簡単に落としてしまう。
恵都が食べるはずだった饅頭が地面に落ちて、残念そうな声を恵都が出す。

「本当にどうしちゃったの?お饅頭、落ちちゃったよ」

千鬼は答えず、恵都の白い首筋に唇を寄せた。

――抑えきれない。


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