天翔ける君
紋付き袴姿でかしこまる千鬼を想像して少し笑って、その想像の中の千鬼が隣の白無垢の女性に笑いかけていて、恵都は胸が苦しくなった。
千鬼はあまり笑わない。
怒った顔も嫌な顔もしない。
恵都にいじわるする時でさえいつも涼しい顔をしている。
でも、たまに笑うのだ。
薄く笑ったその表情はいつもより穏やかな雰囲気を醸し出し、見つめられるとふわふわとした不思議な気持ちになる。
恵都は千鬼の笑顔が好きだ。
あのふわふわとした気持ちになるのが好きだ。
でも想像の中の千鬼は隣の花嫁にその笑顔を向けて、恵都を見ることはない。
千鬼が笑っているのに、恵都はちっともふわふわとした気持ちにはならない。
恵都はそれを遠巻きに見ているしかないのだ。
苦しくて苦しくて、でも恵都にはその理由も分からなくて、咲き誇る桜を見つめるのに専念した。
「恵都ちゃん?」
山吹の声で、恵都は我に返った。
「もうごはんの時間だから、手伝いお願いできる?」
「ごめん、ぼうっとしてたみたい」
曖昧に笑って、恵都は立ち上がった。
いつの間にか日は落ち、辺りは暗くなっている。
月明かりに照らされて、桜が淡く浮かび上がっていた。