天翔ける君



――いったい、どんな人と結婚するんだろう。

とうの千鬼はなにも言わない。
ごはんを食べている時も、部屋で恵都と話している時も、まったく普段通り。
山吹の冗談だったのか、それとも恵都の聞き間違えかと思ってしまうくらいだ。

次の日もその次の日も、千鬼はなにも言わなかった。


――おしえてくれたっていいのに。
恵都はこっそりとむくれる。

きっと、言いにくいのだろうと思う。

だって、千鬼が結婚したら、そのお嫁さんはこの屋敷に住むことになるのだろう。
そうした恵都はここを出ていかなければならない。

恵都は人間だが女で、だから一緒に住むのはおかしい。
千鬼のお嫁さんがいい人だったとしても、きっと嫌がる。
知らない若い女と住んでいるなんて嫌に決まってる。

もし恵都がそのお嫁さんの立場だったら、夫となる相手が姉や妹でもない女と同居していたらやっぱり嫌だ。
変だって怒るかもしれない。

だから言いにくいのだろう。
きっと千鬼は恵都を追い出すのが忍びなくて言えないのだ。
だって、恵都はこの屋敷から出てしまえば、いつ食われてしまってもおかしくないのだから。



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