天翔ける君
「でもお嫁さんの方は私がいたら嫌だと思うけど」
もうあんな風に敵意のある目で睨まれるのは嫌だ。
やましいことなんてないのに、いじめられたくない。
――もう一度あんな思いをするくらいなら、いっそのこと……。
クラスメイトのあの子の顔が思い出されて、恵都の手は無意識に震えた。
「千鬼のお嫁さんはいい人かもしれないけど、でも嫌な思いさせちゃうよ」
あぁ、と山吹はやっと合点がいったようで、
「んー」
と小さくうなる。
「じゃあさ、オレと結婚すればいいんじゃない?」
「……でも、お嫁さんは千鬼のお嫁さんでしょ?」
なに言ってるの?と恵都は山吹を見やる。
「違う違う。恵都ちゃんがオレと結婚すればいいんだよ」
山吹は名案と言わんばかりの満面の笑みを浮かべている。
冗談を言っているようには見えない。
でも、本気でこんなことを言うなんて信じられない。