天翔ける君
山吹のことは好きだ。
でも、それは兄のような存在としてだ。
優しくて親切で、電化製品抜きの家事などしたことがない恵都にも面倒がらずに教えてくれた。
感情がそのまま表情に出るような正直な人柄で、山吹といると楽しかった。
もしも本当の兄だったら、恵都はきっと自慢に思っただろう。
しかし男としては見ていなかった。
家族のような存在だと思っていたから。
だからこそ、どう返事をしたらいいのかが分からない。
好きだと言われて、もちろん嫌な気はしない。
結婚したい方の好きだなんて、突然言われて驚きはしたけれど。
「千鬼、ごはんだよ」
襖越しに声をかけると、あぁ、と短い返事が返ってきた。
――山吹と結婚することになったら、千鬼はどう思うのかな。
おめでとう、と祝福してくれるのだろうか。
一瞬考えて、恵都はすぐに当たり前だと結論付けた。
山吹はただの手下だと千鬼は軽口を叩いていたが、実際の扱いはごく親しい友人か家族のようだった。
その山吹が結婚するのだから、祝福しないわけがない。
胸につっかえるようなその気持ちを恵都は知らない。
もやもやと滞留するようなそれを振り払うように、恵都は頭を振った。