天翔ける君
桜の花びらが散るのは眺めながら、恵都はもの思いに耽っていた。
千鬼に呼ばれたが、断ってしまった。
千鬼は機嫌を損ねるわけでもなく、そうか、の一言で引き下がってくれた。
山吹のことで頭がいっぱいで、千鬼と話しても上の空になるような気がした。
それだったら山吹のことを突き詰めて考えた方がいい。
告白自体は人間界にいる時に何度かされたことがある。
その時は好きと言われただけでどうしたらいいのか分からなくなった。
恵都の知らない人だったし、だからよく考えもせず断ってしまった。
それなのに、結婚なんて言葉を出されたら、さらにわけが分からなくなる。
だが分からないからと言って、簡単に断るわけにはいかない。
誠実に答えたいと思う。
――でも、そもそも、好きってどういうこと?
恵都はついに頭を抱えてしまった。
母が好き、仲のいい友達が好き。
それとは違う好きだということまでは理解できる。
恵都は誰かを好きになったことがなかった。